『杉板張り外壁と片流れ屋根の作業場』完成写真と設計ポイント(能勢町 凸凹工房)

2019年の12月に着工し、2020年の3月に竣工した能勢町
山辺の作業場(凸凹工房)新築工事の竣工写真をやっとこさ
編集し終え、
やっとこさホームページにアップいたしました。


建築の打合せや工事を進める中で、凸凹工房の方々の仕事やセンスに触発され
今までとは異なるテイストの建物に仕上がりました。ぜひぜひ、完成した
姿を見てやってください。

いつもは完成写真のアップと共に”設計のポイント”を思い返したりしている
のですが、今回は設計者としてだけではなく施工者の一人としても関わって
いました
ので、いつもとは少し違った目線での解説になりそうです。

■キーワードは”能勢町山辺になじむ”という事

制約のある中で建物の高さ・屋根形状を検討

まず、建物の設計を始める際に心に留めたのは、”能勢町山辺という長閑な場所に建つ”という事。
なだらか稜線が連なり、その一部に人間の生活があるという事を感じられる、そんな素敵な場所です。

なので、決して大きな建物を建てるわけではないですが、これまでの素敵な雰囲気を、場所を、
崩さないように建物の計画をしたいなと思いました。

まず配置計画ですが、これは消失した以前の基礎やコンクリート土間が残置している上、隣地と道路面
は約2mほどの高低差があり、残置物と安息角(擁壁からの距離)から逃れた場所に建築するという
制約がありました。

以前は道路から離れた位置に建っており、建物と道路との間に十分な余白があり、地域に溶け込んで
いましたので、制約はあるものの出来るだけ、地域の方の散歩道にもなっている道路に影響が出ない
ように配慮するように心掛け、道路側の建物高さを極力抑える事を決めて建物のプランを進めまてい
きました。

また、この敷地の裏側からはゆっくりと登り初めていて、この山の稜線に沿った形状にする事で
能勢町山辺の土地に馴染む建物になるんじゃないかと思い、緩勾配の片流れ屋根の平家建ての建物
を計画する事にしました。

作業場としての用途ですので、機械の配置等も考慮して、水下側の軒高さを2.550mmに設定。
また、室内に4m材を保管出来るようにする必要があった屋根勾配を2寸に設定し、水上側の
軒高さを4.036mm確保する事にしました。

建物のボリュームはさきほども書きましたが、残置物や擁壁からの距離等から逃れた位置で
最大面積を確保すると間口が30.03m、幅が7.28mで床面積が218.61㎡(66.13坪)。
住宅ではなかなか出会う事の無いボリュームです。

気づけば設計者から監督、職方、セルフビルドの流れへ

配置・形状・構造・仕上げ素材や建具と設計を進め、建築確認に提出出来るほどまで詰めたところ
で、次なる悩みは予算。火事による消失で保険金がおりたものの、予算はかなり厳しくなにをどう
やっても足りず、、、出した答えは”セルフビルド”。

と言ってもかなり恵まれた?状況で、元々この消失した建物の店子さん方は個人で活動している
木工作家さんたちで一式の道具に技術を持ち合わせていましたし、建築主(大家さん)は元土木業。
その他の板金や土間コン等も知り合いにうまく繋がり、徐々に好転していくのですが、どうにもな
らないのが基礎と木構造。

建築確認も出さないような小さな建物であればどうにか出来そうな気がしますが、このボリュームと
なるとまず無理(汗)わたしがプレカット等のやり取りをすべて引き受ける事で予算も何とか合わせ
て頂き、”基礎+建て方”まではいつもお願いしている工務店さんに依頼する事が出来ました。

その他の工事の見積もりも出してもらいつつ、こちらでセルフビルドを行う作業の見積もりは私が行い、
なんとか予算内で工事が進められる目処がついた時には、もう設計者という立場よりも監督としての立場
に近かったように思います(笑)

着工後はさすが、という仕事ぶりで建て方まではあっという間に終わり。
そこからは現場監督経験なんてほぼ皆無のわたしが現場を仕切っていきましたので、本当に一歩ずつ。
プロがみたら笑ってしまうくらい一歩ずつ工事が進められて行きました。

工事に来てくれる職人さんとの打ち合わせは、わたしがこれまでに設計者として行ってきた意匠的
な内容とは異なり、作業や材料の段取りや下地状況、端部の納まり、関連工事との工程調整などなど、、、

施工に関しては、もうそれはそれは必死に施工要領書読んで勉強しました(笑)工期調整もなんと
なくは分かっているつもりでしたが、いざ実践となると思い通りにはいかず、各工程や職人さんと
の兼ね合いに四苦八苦。。。工事中はずーっと、ひとりで綱渡りしている気分だったことを思い出します。

そして、建て方→屋根工事→シート・防水テープ張り→サッシ・シャッター取り付け→電気工事→
砕石転圧→土間コン打ちまで終え、終わりが見えてきた2月末頃にやっと少しだけ楽しむ余裕が出て
きて(それまではあんまり笑っていなかったらしい)ここからは監督というか、一人の職方として
作業する事が増えてきましたが、どんどんと完成に近づいていくのがもう楽しくて楽しくて。

少しでも時間を見つけては現場に向かい、杉板張りを進める日が続き、、、3月中旬に工事完了。
完了検査や消防検査も問題なく終え、何とか3月中にすべての手続きを終える事が出来たときは、
いつも以上に嬉しかった事を今でも鮮明に覚えています。

この経験は間違いなく、っというか、すでに私自身の仕事や価値観に変化をもたらしてくれました。
もっと現場に出て施工全般の理解を深めたい、設計というよりも建築をもっともっと知っていきたい
と思い、少しずつですがこれまでとは異なる道に一歩ずつ進みだしています。

杉板塗装はムラムラ。自然の風景もムラムラ。

最後に外壁のマル秘話。
外壁は施工性やコストを考慮して、杉板張りとしました。途中で継がず、全て一枚ものを縦張り
とする事で防水性の向上を図りました。また、板と板は5mmほど目透かしておき、雨水侵入時
の逃げ道を確保してから、押さえ縁で仕上げていきました。意匠面においても個人的にこの”縦張
り+押さえ縁”の仕上げはかなり好み。押さえ縁の凸凹が建物に陰影を生み、建物自身に個性が出てきます。

で、ここまでの押さえ縁の陰影うんぬんは、計画上イメージしていましたが、、、ここからがマル秘話。

杉板の耐久性を向上させる為、塗装をしています。張ってから塗装を行うのは大変なので、先行
して塗装を行っていました。で、当初はキシラデコールの”シルバーグレイ色”で塗り進めていたん
ですが、杉材が想像以上に塗料を吸い込むので途中で買い足してもらったのですが、届いたのは
”ブルーグレイ色”(笑)で、気づくともう塗り進められていて、、、ちょっと焦りましたが、色合い
自体はとても良くて、同系色の2色使いは案外面白いかも、とワクワクドキドキしながらも塗装を
終わらせました。

で、工事が進み、2色に塗り分けられた杉板を張る段階が到来。色が変に偏らないように注意しつつ、
張り進めてみると、、、これが、、、その、、、想像以上に、、、良い!すごく良い!!

同系色の二色のまだら張りに加え、いろいろな人の手で塗られた板はもうほんと様々な仕上がりで(笑)
そうした要素が当初から意識していた風景に馴染む事、というコンセプトに見事なほどに合致。その結果
オーライの理由を周囲の風景を観察しながら、考えていると、自然に同じ色なんて無い事に気づきました。
葉っぱ一つとってもまったく同じ色合いじゃないし、自然もムラだらけ。ムラだらけの風景に、ムラだら
けの建物が建てばそらあ馴染むわけだ(笑)

現在の建築の流れって、同じ色合いをいかに保つか、とか、いかに色合いを揃えるか、とか、そんなこと
ばかりなので、この事に気づいた時、なんだかすごく嬉しかった記憶があります。これもまた今までの
価値観が崩れる良い経験になりました。

そんなこんなでいつものように”設計のポイント”というよりも、わたしの思い出みたいな内容になって
しまいました(笑)工事中の様子もブログに残しているので、気になる方はぜひぜひ見てやってください。